立華時勢粧序
およそ瓶に花を立て楽しみとなすわざ、もろこしにもありと聞けど、法を定め掟を守りて指す事なし。
和朝には昔日 この道に長じ、東山音羽の桜に苔むしをそがせ、西谷や高雄の紅葉には晒木を削らせ、あるは小しだのみどりを夏ばせに映し、あるはかるかやのおぼつかなく水仙のざれたるもおかしく、おのれおのれが出生直ちにかんがみ、うつり行く自然の気色を瓶にうつして、翫びたまいしより、代々の楽となりにたり。
その風景のたえなるにいたりては、春の山の笑る顔に詞の花のことぶきを立てあるじの目をよろこばせ、秋の山の愁たる形になき人の作善を追うて仏の道うとからず。
されば瓶上に南山の美をつくし、砂鉢に西湖の風色をうつす。
ちからをもいれずして高き峰、深き溪を小床に縮む。
至らずして千里の外の勝景をみること、その術諸芸の及ぶところにあらず。
いでやこの道に名ある人。
くれ竹のよよに絶えせず、松が枝のおりおりに出て、形体めづらなる風俗を立て初めしより、瓶の下水を味ふるもの数多になりきて、予も又花に遊ぶこと久しく、且つはたつきなき山路にたどり、かつはしるべなき野辺に迷い、好めるを友とし、優るるを師として、多問多聞を恥じず、それよりこのかた諸師の秘伝と諸書奥義と、鍛錬つくして、新たに風体を指し出せり。
然れども古法の格式草木の出生、もとより背くことなし。
今ここに図する所の百二十瓶四時の景物に随いて、会をなし、諸人庭に沓いれし席の花形なり。
これ人の目だつべき色もなく、心とどむべきふしも侍らねど、よしや笑草、四方にはびこり、根ざしのかれぬよすがともならなむかしと、名付くるに時勢粧の字を仮り用いるものなり。
貞享五年弥生日
内容
巻一 「立花時勢粧 上」(33図)
立花時勢粧序
真行草の図
真の花形(一図)
行の花形(一図)
草の花形(一図)
直心立の内真の花形(一図)
直心立の内行の花形(一図)
直心立の内草の花形(一図)
除心真行草の事
除心立の内真の花形(一図)
除心の内行の花形 請上り立(一図)
同 水際除 請上り立(一図)
同 流枝持立(二図)
同 内副立(二図)
同 請流枝立(二図
同 中流枝立(二図)
同 左流枝(二図)
除真の内草の花形(十一図)
砂物真行草の事
砂の物の内真の花形(一図)
同 行の花形(一図)
同 草の花形(一図)
巻二 「立花時勢粧 中」(45図)
雑体の図
巻三 「立花時勢粧 下」(40図)
秘曲の図(四十五図)
真の対の花(二図)
行の対の花(二図)
草の対の花(二図)
合真(一図)
二つ真(一図)
おもと前置(一図)
小しだ前置(一図)
松の前置(一図)
竹の胴(一図)
南天の胴(一図)
藤の心(一図)
見越竹(一図)
牡丹の心(一図)
草花(一図)
松竹梅(一図)
杜若一色(三図)
荷葉(蓮)一色(三図)
菊の一色(三図)
水仙一色(三図)
松の一色(三図)
紅葉一色(三図)
櫻の一色(三図)
草花砂の物草(一図)
巻四 「立花秘伝抄 一」
常磐木の部
木 枝 気條 株 蘖 葉
花 蔓 松 若松 笠松
緑松 引松 松笠 禿松
かこい松 根じめ松
檜 柏 枇杷
栢樹 栂 榊 かなめ わくら
しらかし かすおしみ 黄楊
棕櫚 杉 うすの木 夏はぜ
ふしくろ 栗の若ばえ
檜の葉 まゆみ 猿すべり
柞 晒木 苔木 柳 河楊
紅葉
巻五 「立花秘伝抄 二」
花の部
櫻 梅 桃 海棠 梨の花
辛夷木 杏の花 百日紅
蘇枋花 木蓮花 椿 山茶花
石楠花 長春 躑躅 姥つつじ
蓮花つつじ 餅つつじ
五月つつじ かうぼけ 榠櫨
馬酔木花 紫陽花 くちなし
桐の花
実の部
澤水木 水木 梅もどき
七かまど たらよう
仙蓼 みむらさき つる水木
深山樒 たちばな 燈籠草
えびついばら 南天 おもと
通用物の部
竹 仙人杖 鬼鍼 鞭竹
唐笹 くまざさ 笹
牡丹 藤 南天
小しだ 萩 山吹 庭櫻
粉団花 小でまり 米柳
小米花 黄梅 連翹 種紫
つる水木 えびついばら
仙蓼 きじの尾 下野 しのぶ
矢筈 磐梨 がんそく 白丁花
岩檜葉 ひとつ葉 茘枝
薔薇
巻六 「立花秘伝抄 三」
草の部
金錢花 蕗花 著莪 高麗菊
鴨脚花 あやめ 美人草 芥子花
うつぼ草 春菊 銀寳珠
杜若 きすげ 姫萱草 石竹
薊 花菖蒲 芍薬 早百合草
姫百合草 洗百合草
あたご百合草 さかりゆり
為朝百合草 鹿子百合草
葦 蒲 つくも
蓮 河骨 紫苑 萱草 葵
桔梗 女郎花 雁緋
松本仙翁花 仙翁花 檜扇
薄 唐黍 鶏頭花 旋覆花
黄精 蒲公英 紅花
だんどく花 菊 寒菊
われもこう かるかや 粟
駒つなぎ 澤ききょう
犬子草 浜木綿 蘭
藤ばかま 鼠尾草 龍膽
よろいとおし 唐車前 あわ雪
花づる 七重草 荵草
きんき草 矢筈 秋海棠
いさざ 野かいどう けまん
茜草 莎草 櫻草 虎尾
つち草 金寳花 にし木
うつぼ草 仙茨菰 ばれん
佛生花 岩芭蕉 水仙花
巻七 「立花秘伝抄 四」
七つ枝の事(図)
(立花道具の図)
対の花真行草の事
松竹梅三瓶の事
立花陰陽の事
十三ケ條法度の事(図)
古代十ケ條法度の事
立花八戒
立花十徳
立花十体
祝言に嫌うべき事
立花細工の事(図)
草木水あくる事
花瓶の事(図)
込の事(図)
床前の事
下指の事
立花見様の事
立花習いようの事
巻八 「立花秘伝抄 五」
九品の花形立様の事
極真立
除心真の花形立様の事
除心行の花形立様の事
除心草の花形立様の事
草の花形立様の事
砂の物真行草
地取の事(図)
立花名目 訓解
心の事
正心の事
副の事
請の事
見越の事
流枝の事
前置の事
胴作りの事
控枝の事
立花腰の事
水きわの事
谷洞の事
つや あしらいの事
意気の事 うつりの事
張弛の事
立花色の事
貫枝の事
以上のような内容になっている。
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